今後10年間に米国オフィス市場で予想されること

 グローバル不動産総合サービス会社のクッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(イリノイ州シカゴ)は、米国におけるオフィス市況についてレポートし、今後10年間に米国オフィス市場で予想されることとして、従業員一人当たりのデスクスペースは17.6平米から15.3平米に約13%程度削減されることや、全体の3分の2を占める賃貸契約が更改期限を迎えること、またオフィス・ワーカー数の増加が予測されているものの、オフィス床需要は現在とほぼ変わらない規模の4.2億平米にとどまる見通しなどを発表した。その詳細を抜粋して紹介する。

フィス需要の減退に伴う賃料への影響はグレード別に多極化

 全体の約15%を占めるトップ・クラスのオフィスビルでは、市場平均賃料に対して3割を超えるプレミアムを維持していく見通し。他に類を見ない経験を提供できる新築のいわゆる「トロフィー・ビル」に対するネット・アブソープション(ネット床需要/建替えに伴う移転需要 を控除する前の数値)は2020年以降の累計で9.3百万平米に達した。快適な職場環境、優れた立地条件、オフィス空間の汎用性、最先端の設備、アウトドア空間、多彩な生活サポートサービス、地域イベントなどが提供できるビルに対する引き合いは底堅い。

 全体の約60%を占めるミドル・クラスのオフィスビルでは、競争が激化し、優勝劣敗の傾向が強まる。追加投資が必要とされる場合も生じていく見通し。陳腐化が早く価格支配力の弱いセグメントであり、及第点(Good Enough)、割安な賃料設定(Value Play)、陳腐化の予備軍にクラス分けできる。

 全体の約25%を占めるボトム・クラスのオフィスビルでは、用途改定や用途転換を行わない限り空室率は高止まりしていく見通し。空室率が50%を超えるビルは全体の7.5%を占めているが、こうしたビルが用途転換された場合、空室率は現行の18.2%から12%へ低下する見通しであることは興味深い。

不動産の陳腐化は投資のチャンスでもある

 オフィス不要論については、既に多く書かれていることから、一部のオフィス物件は本来の用途を満たせなくなる懸念も残る。そんな中、クッシュマン&ウェイクフィールドのレポートでは、新しい市場のニーズに応えることができるオーナーにとってのプラスの可能性に焦点を当て、米国のオフィス市場の潜在的な可能性を定量化し、今後予想される供給パイプラインと需要トレンドを様々な視点から比較している。その調査結果によると、ハイブリッド・ワークや効率化・ESGの優先事項をサポートする将来需要を充足することのできない余分なオフィススペースが、10年後には約100万平米生じることが見込まれている。 これは、空室率が均衡水準である13%から19%へ上昇することを意味する。このような需給の不均衡は、拡大傾向にある品質格差によって、さらに加速している。ハイブリッド・ワーク対応が可能で、充実した対面での体験を提供できるオフィスへの需要は非常に高い。その一方で、先進的なテナントの要件を満たせないオフィスへの需要は非常に低くなりつつある。

変化するビジネスチャンス

 米国のオフィススペースの大半は競争力のあるポジショニングを検討する必要があるが、逆風に直面するオフィスがすべて不要となるわけではない。このような課題に積極的に取り組むビル・オーナーや投資家であれば、資産価値を回復させ、投資収益を上げていくことができるだろう。運用戦略、資金調達、売買取引実行のための適切なパートナーと提携すれば、用途改定(リポジショニング)や用途転換(リパパス)のチャンスに事欠くことはないだろう。

用途改定と転換

 ライフサイエンス、ヘルスケア、集合住宅などの分野におけるケーススタディや詳細な分析などを通じて、用途改定や用途転換の選択肢を探っていくと、用途改定は、時代遅れのオフィスビルの価値を向上させ、テナントの要望に近づけるためには、最も安く効率的な戦略の一つと言える。しかし、地域別に異なる地元テナントの需要を満たすべく適切な規模やエリアに投資するためには、十分な経験と洞察力が必要だ。

 また、マーケット、サブマーケット、物件の属性によっては、競合状況や建物の物理的特性から、用途改定が難しい場合もある。用途転換が可能とされる資産のオーナーであれば、次の評価段階で、プロジェクトのコスト、潜在需要の可能性、出口戦略などを徹底的に試算していく必要がある。

    By Leap JP

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