▶️ for Premier members
日本企業のアメリカ進出というものは昔からあった様ですが、1980年代に入ってから爆発的に増え、それから約40年が経ちました。その中で、現在一定の成功を収めている企業もあれば、そうではない所も多く存在します。特に見聞きするのが、アメリカ市場での売上が伸び悩んでいる、あるいは現地化が進んでいないなどといった状況で、本当の意味で「成功」している企業は一握りなのかと感じられます。
つまり、ほとんどの所では何かしらの問題や課題が残っているということです。そこで今回は、在米日系企業にはどのような課題があるのか、またそれにはどの様な原因があるのかを考察してみました。
解決が困難な「駐在型組織」という本質的な課題
多くの在米日系企業が抱える課題として何よりも先に挙げられるのは「駐在型組織」の弱点です。これは、数年に一度マネジメントが変わってしまうために、組織としての経験やノウハウの蓄積が少ないという課題になりますが、現地化が進んでいない組織や、特に人数が100名未満の組織に見受けられる傾向で、そうではない企業には当てはまらない部分があることをご留意ください。
例えば、もしアメリカ人がアメリカで起業した場合、そのオーナー社長が何十年にもわたって責任を持ち会社を経営することになり、その中で得た経験やノウハウは年々蓄積され、組織の展望も中長期スパンで描く事ができますが、もし組織のトップが4年に一回変わってしまう場合、数十年続けているオーナー社長のケースと比較すると、蓄積は少なく展望も短くなってしまいます。極端に表現すると、4年間蓄積したもののマネジメント交代時にその蓄積が減り、その状態からまた4年蓄積し・・・といった具合に、マネジメント交代時に「4+」から始まらず「1+」にしかなりません。そして、その次も「1+1+」にしかならないといったイメージで、20年連続で蓄積される状況とは大きく異なるのです。
しかし、その駐在員マネジメントの赴任期間を決めているのは、派遣される人ではなく会社側です。そのため、その蓄積や展望に関しては会社側、すなわち日本本社が主導でなされれば良いものの、現状そういった機能を備えている組織は多くないのが実情です。海外/グローバル本部がない、あるいは部署はあるもののあまり機能していない、日本向けの部署が海外の分も手伝っているのみ・・・といった具合で、中長期的な展望を経営目線で描かれていないケースやノウハウを蓄積する、または管理する所がないといったケースが問題となっています。
追い打ちをかける「ローカルスタッフも入れ替わる」文化
さらに、駐在員マネジメントが定期的に変わってしまうとして、せめて現地採用者で長期スパンに渡ってある程度の責任を持って働いてくれる人がいれば良いのですが、それもあまり現実的ではないということが、この「駐在型組織」の弱点をさらに浮彫りにしてしまいます。
アメリカでは人生で10回以上転職するといわれており、実際に政府が出している統計では、平均勤続年数は約4年、年代によっても異なり、20代では1年程度、キャリアが深まるにつれて長くなり、40代では10年以上勤務している人の割合が増えてくるといった傾向があります。つまり、キャリアが浅い頃は、より多くの経験が積む事が重要視され、もし現在の職場でその機会がなければチャンスを求めて他社に行くといったことを繰り返し、ある程度キャリアが深まった所で転職を意識しなくなるといった具合です。そして、一定以上のポジションが日本から派遣されている人に独占されがちな仕組みとなっている在米日系企業では、長期に渡って務める人は多くはなく、組織の空洞化が問題視されている所も少なくありません。余談ですが、長年勤めてくれている人がいた場合は、業務のブラックボックス化問題が発生する場合もあるので注意が必要です。
優先順位が発生してしまう不十分な引継ぎ時間
加えて、駐在員マネジメントが入れ替わる際、業務を新規赴任者に引継ぐ事になりますが、その期間が短いケースがあり、私が見聞きする限りでは1ヶ月以内の所が多い様に感じます。個人的には、本来一度書面や口頭で伝え、ルーティン作業は一度一緒に行ってみるなどといった形で引き継ぐ形が理想的だと考えるため、2-3ヶ月以上はかかるものとイメージしますが、それが1ヶ月程度しかない場合、どうしても引継ぎ事項に優先順位がつけられる形となってしまいます。
つまり、本来は重要度が高いものであっても一部しか引き継がれない、あるいはほとんど引き継がれないケースも発生してしまいます。一般的な優先順位としては、販売のノウハウや顧客情報、次いで会計/経理などのお金まわりで、残念ながらHR関連の優先順位は低く、引継ぐ内容が限定的、あるいはほとんどなされないことが多い印象があります。
派遣される側の専門性やマネジメント経験の不足
さらに、アメリカ拠点のマネジメントとして派遣される場合には、多方面に対する知識や経験が必要になりますが、チームを持っていないかった人が急に部下を持つ、日本では営業一筋でやってきた人が急に経理や人事を見る、などといった具合に、必ずしも全てを兼ね備えた人が派遣される訳ではありません。また、派遣時にミッションが明確でないことも多く、「駐在員社長が変わると、会社の方向性や制度などが変わってしまう」といった事態が発生することもあり、赴任先のビジネス状況や組織文化を把握する機会がない、あるいは赴任先での立場が明確にされていないケースも問題として見聞きします。
そうなると、ローカルスタッフからしたら、「またか・・・」といった具合でネガティブな影響をおよぼしたり、場合によっては「この人もどうせ4年でいなくなるから、それまで耐えるしかない」といった考えを持つ人が出てくることや、業務を実行する際に駐在員が頼りにされないといった事態も発生しかねません。これは、アメリカに派遣される各人よりも、この仕組みを管理する日本本社側の人選や事前研修の不足といった部分に大きな問題があると考えられます。
Human Resources(HR≠人事)の重要性
今回のケースは、一部当てはまらない組織はあるものの、いずれにせよ「駐在型組織」には根本的な弱点がある事に変わりはありません。日本側はその仕組みを、アメリカ側は運営を見直した上で対処することによって、各企業が目指す方向に力強く向かって行けるのではないでしょうか。
アメリカ側でできることとしては、ノウハウや知識を蓄積させる手段を確立することや、ローカルスタッフがより長期間にわたって務められる様なリテンションプランを考えるなどが挙げられますが、そこにはHRの存在が欠かせません。そのため、この機会に皆さまの組織におけるHRの機能や、現在利用されている外部リソースに関して見直されてはいかがでしょうか。
文章:Kimihiro Ogusu, SHRM-SCP, 中央大学 非常勤講師 (SolutionPort, Inc.)
《関連記事》
◻︎◻︎連載◻︎◻︎ AIが仕事に及ぼすであろう影響 とは─25%が時間を節約するのに役立つと回答
◻︎◻︎連載◻︎◻︎ アメリカでは、不妊治療に関する福利厚生が増加している?! 米国雇用主の42%が提供
◻︎◻︎連載◻︎◻︎ 2024年7月より適用予定のExempt従業員最低年収更新が取り下げに!