ニューヨーク特産のリンゴや野菜をたっぷり使い、水を一切加えずに作るニューヨーク州ブルックリン発「MOMOドレッシング」。このドレッシングの開発・製造を手掛けるMomose Inc.の百瀬勝基(まさき)さん由紀美さん夫妻が、新事業「酒粕ソルベ(MOMO sweet factory)」に乗り出す。


MOMOSE, Inc. (MOMO dressing)
オーナー
百瀬 由紀美 さん、百瀬 勝基さん
https://www.momodressing.com


酒粕を使った〝酒粕ソルベ〟で業界に新風

 シャーベットでもなく、ジェラートでも、アイスクリームでもない〝ソルベ(Sorbet)〟は、もともとフランス発のデザート。乳脂肪分を含まず、果汁やリキュール、シロップなどを凍らせて作る冷菓のを指す。百瀬さんは、ここに酒粕を用いたソルベで、アメリカ市場に新しい風を吹き込んでいく。「越えなければならないハードルも多かったのですが、冷菓の本格シーズンとなる6月に間に合わせることができそうです」と今後の展開を急ぐ。

 原料となる酒粕は、ニューヨークローカルの日本酒メーカーの酒粕を使用し、これまでのドレッシング製造から得た深い知識や経験をソルベ造りに落とし込んでいく。まずは、ニューヨーク州内レストランなどへのB to B事業に照準を合わせて動き出していく。「長野県伊那市“かんてんぱぱさんの寒天を使用しており、これが絶妙なテクスチャーを出してくれています。また、酒粕の上品なコクがさっぱりとしたソルベの口当たりを滑らかで味わい深いものにしています。ソルベ好きにはもちろんですが、日本酒が苦手という方にもお勧めできる仕上がりです。ゼロ・アレルゲン、ビーガンなのも魅力の一つですと、百瀬さんはソルベの仕上がりに自信を覗かせる。

始まりは、ファーマーズ・マーケットから

 今では、アメリカの大手グロッサリーストア「ホールフーズ(Whole Foods)」の棚に並び、ニューヨーカーにも大人気の「MOMOドレッシング」だが、その始まりはファーマーズ・マーケットから。

 高校3年生の時から8年間、小さな鉄板焼き屋で調理と経営を学び、いずれは自らで民宿を開業したいと考えていた。そんな中、ニューヨークで暮らす姉を訪れる機会があり、この街で出会った人々のパッションや空気感から大きな刺激を受け、百瀬さんの人生を変えるターニングポイントとなった。ニューヨークで挑戦してみたい、その想いを持ち、翌年2010年2月に再びこの地に降り立った。

 転がり込んだ姉のアパートの隣りには、毎週日曜日にファーマーズ・マーケットが開催され、近隣の農家が自慢の野菜を売りにきていた。それを見て、農家であり自らもブースで野菜を販売するエジプト人のイベントオーガナイザーと出会い、拙い英語でこう聞いた。「あなたのリンゴや人参を買い、それを使って家でドレッシングを作りたい。このテーブルの横で売らせてくれませんか」。すぐにOKの返事を引き出し、1日20ドルの場所代を払い、わら半紙に〝マサキズ・ドレッシング〟と書いた手作りの看板を掲げて自家製ドレッシングの販売を開始した。

最初の単語は〝Blue〟だった

 〝僕に英単語を1つ教えてください。もし僕が知らない単語であれば1ドル割引きします。僕が知っている英単語は20個ほどなので心配はいりません〟と書いたサインボードを店先に置いた。すると、それを見た子供たちが、百瀬さんに英単語を教え始めたのだ。最初の単語は〝Blue〟。そこから、いくつもの単語が寄せられ、一人でいくつもの単語を教えてくれる子供もいた。〝Entrepreneur(起業家)〟という単語を知ったのもこの時。次第に、付き添いの母親たちがドレッシングのサンプルを試し、購入してくれるという流れが生まれた。週に30本だった売り上が100本に、そして150本となり、毎週のようにファンがどんどんと増えていった。そこで教えてもらった単語数は、最終的に約600ワード。その時のサインボードや英単語ノートは百瀬さんの宝物の一つとなり、今でも大切に保管されているという。

 売上も順調に伸び、少しだけ明るい兆しを感じかけていた頃、問題が発生する。このドレッシングを食べてお腹が痛くなったという女性が現れた。すぐに、米系レストランでシェフをしていた由紀美さんに相談すると、衛生管理が徹底されていない自宅キッチンで作ったドレッシングを販売することは、非常にリスキーだとのこと。由紀美さんのアドバイスに従い、2013年3月21日にMomose Inc.を立ち上げ、ファーマーズ・マーケットで正式に販売できるよう保険に加入し、衛生対策も万全なシェアキッチンを借りた新たな体制でドレッシング作りを再開した。由紀美さんと結婚し、商品名を〝MOMOドレッシング〟と改名したのもこの頃だった。

 毎週日曜日、雨の日も雪の日も休まず、マーケットでドレッシングを売った。初日の売り上げは2パックで6ドル。しかし、ここから百瀬さんの快進撃が始まる。自分の作ったドレッシングに興味を持ってくれる人がいるということは分かった。しかし、もっと売り上げを伸ばすためには仕掛けが必要と、4週間が経った頃からアイデアを一つずつ実行していくことにした。

大手グロッサリーストアとの出会い

 「どこで、誰に、何を売るのか。このコンビネーションを間違えると、商売はうまくいかなくなるんですよね」と百瀬さんは笑う。商品は同じモノでも、川の向こうにいくと2倍で売れたりする。試行錯誤を重ねていくうちに、MOMOドレッシングにとってのベストな販売場所は〝ファーマーズ・マーケット〟だとの結論に辿り着き、そこで最大限の利益をあげていくことに注力した。

 商品の改良も積極的に行った。特に、最初の頃は、冬と夏で醤油の分量を変えるなど、顧客からのフィードバックを商品に一つずつ反映させてきた。MOMOドレッシングは添加物を一切使わず、リフィル時の熱消毒も考えたグラスボトルを使用している。こうした改善を一つずつ加えていくことで、自分たちが納得できるドレッシング造り体制が固まってきた。

 「まず3年突走ってみて、ダメならそこで諦めよう」──由紀美さんとそう決めて、二人三脚がむしゃらに働いていた時に、大きなチャンスが舞い込んだ。いつものようにファーマーズ・マーケットでドレッシングを販売していると、数人の顧客がやってきて、「この近くに新しくオープンするホールフーズでMOMOドレッシングを売らないか」との声が掛かったのだ。当時、ホールフーズでは、〝ローカライズ〟をコンセプトに打ち出し、MOMOドレッシングがその対象の一つとして選ばれた。このブルックリン・ガワナスのホールフーズは、全米500件中No.1の売り上げを記録することになるのだが、そこにMOMOドレッシングが置かれた意味は想像を遥かに超え、その後、トライベッカ店、チェルシー店、コロンバスサークル店とMOMOドレッシングの取扱店が増えていった。

ブルックリンに専用工場を開設

 当然、納品するドレッシング量も一気に増えたので、作っては配達し、店舗で対面セールスをし、またキッチンに戻ってドレッシングを作るという忙しい日々が続くようになった。「目の回るような忙しさですが、自分たちのコンセプトが間違っていなかったことを感じました。そこで、今こそシェアキッチンを出て、自分たち専用の工場を持つ時だと決意しました」。

  2016年6月、ブルックリンにあるBrooklyn Army Terminal Annex(アーミー・ターミナル・アネックス)に工場を開設し、本腰を入れて大量生産へと乗り出す。2020年からは、コロナの影響でオンライン販売が伸び、ビジネスが一気に加速したが、ここから設備投資も一気に増やしていこうという矢先、今度はウクライナ戦争で物流が停滞、原料価格の高騰が起きた。「経営者の皆さん同じように感じたのだと思いますが、この数年間だけで、ビジネスの面白さと厳しさを一気に味わいました」と百瀬さんは振り返る。

今後100年続く、活き活きした企業に

 2022年3月には、製造工場の入っているビル1階に〝MOMOテストキッチン〟というレストランもオープンした。食べることが大好きで、料理を作ることも大好き、そして本当に料理を愛する由紀美さんの夢をカタチにしたものだ。NYC Ferry サンセットパークのターミナルから徒歩1〜2分のところにあり、近隣で働く人々や、散歩で近くに立ち寄った人たちにとっても人気スポットとなっている。

 今年3月21日には創業10周年を迎え、百瀬さんは、今後100年続く企業にしていくための次の挑戦へと取り組む。まずは、同社のドレッシングやポン酢などの商品を、1回使い切りの小さなパッケージとフードサービス用の大きなサイズを販売していくこと。すでに機械も導入済みで、カジュアルなレストランチェーンやフードコート、航空会社やホテル、学校などB to Bの現場で展開する。そして、2024年6月からローンチの酒粕ソルベ事業など、新たなアイデアを時代の速さに負けないスピード感で形にしていく。「ここまでは、ある意味勢いでやってきたところがありますが、今があるのは、たくさんの人たちの支えと幸運に見舞われたからこそだと思っています。常に感謝の気持ちを忘れず、これから100年続く、活き活きした企業を育てていくことが目標です」と百瀬さんは笑顔で語った。


Momo Test Kitchen
Annex Bldg, 80 58th St, Brooklyn, NY 11220
Monday – Friday 11:00am – 15:00pm
https://momo-test-kitchen.square.site/

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